東京地方裁判所 昭和42年(ワ)9706号 判決 1968年5月30日
原告 黒沢義雄
右訴訟代理人弁護士 成田哲雄
被告 株式会社酒井組
右訴訟代理人弁護士 大竹昭三
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は「被告は原告に対し金一八九、五五〇円およびこれに対する昭和四二年七月三〇日から完済まで年六分の割合による金員の支払をせよ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、請求の原因として次のとおり陳述した。
原告は、被告の振出した左記約束手形一通の所持人であって右手形を満期に支払のため呈示した。
記
金額 一八九、五五〇円
満期 昭和四二年七月三〇日
支払地および振出地 東京都世田谷区
支払場所 八千代信用金庫 祖師谷大蔵支店
振出日 昭和四二年四月二五日
受取人 黒沢義雄
よって被告に対し、右手形金一八九、五五〇円およびこれに対する右の満期から完済まで年六分の割合による法定利息の支払を求める。
被告訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め、答弁として次のとおり陳述した。
被告が原告主張のような約束手形を振出した事実を否認する。右手形に押捺されている印影は被告が銀行取引に使用している印鑑によるものではない。<証拠関係省略>
理由
原告は、被告が原告主張のとおりの約束手形一通を振出したと主張するけれども、右の事実を認めるに足りる証拠はない。もっとも原告が右の手形であると主張する甲第一号証の一に記載されている振出人の記名印は被告会社備付のゴム判によるものである事実、および右記名印の傍に押捺されている印影は被告代表者が個人で使用している印章によるものである事実は、被告代表者の供述によって認められるところであるけれども、他方成立に争いのない乙第一号証に押された印影と右甲第一号証の一の印影を対比しかつ被告代表者の供述を併せると、右甲号証の印影は被告が取引銀行に届出てある印章によるものではない事実、被告代表者は手形の振出にあたっては常に右の届出印章を使用し、代表者個人用の印章を使用したことはなく、手形の振出を他人に任せたり、印章類の使用を他人に許したこともない事実、しかるに前記甲号証作成に使用されているゴム判および個人用印章は被告代表者の知らない間に何人かによって勝手に使用されたものである事実、を窺い得るから、結局、前記甲第一号証の一は真正に成立したものと認めることはできないといわなければならない。
そしてこのほかには、原告の前記主張事実を認め得る証拠はないから、右の事実を前提とする原告の本訴請求は、その余の点を検討するまでもなく理由がないというべきである。<以下省略>。
(裁判官 秦不二雄)